映画に逃げた

観た映画について書きますがホラー比重重め

ラブドールが熱を持った日

ラブドールが熱を持った日

極限まで疲れたある日、ラブドールに抱きつくと人肌に温かかった。あれは夢だったのか。気になった私はラブドールの検温を始めた。

ラブドールを購入するのは念願の夢だった。その存在を知った(当時中学生、映画エボリューションを観た)ときからである。悲しきかな、思うとこれまでの人生で夢を叶えたのは初めてかもしれない。

 

2021年の夏、会社から降りた自己啓発支援金(使用用途レポート有り)を用いてラブドールを購入。

24歳にして彼女歴のない私は、常にラブドールという存在に恋焦がれていた。

高校生の頃、勉強しているとふと頭にラブドールが居てくれたらとよぎった。

ラブドールが見ていてくれれば頑張れる。部屋に女の子が居ることはいいことに違いない。成績が低いのはラブドールが居ないからだ。私に足りないのはラブドールであると考え、何事にも力が入らない。

 

実家住みだった私は何度も、ラブドールを買った場合いかにして隠すのかを妄想していた。

“ベッドの下に収納スペースがある。ここに入れようか。いや、大きさが足らない、クローゼットに立たせよう”と。妄想の結果は決まって家族会議だ。

泣き出す母、無言を貫く父。状況を察知して自室へ逃げ出す妹。

どれだけファンタジーな収納方法を妄想しても家族会議はリアルで嫌な感じになる不思議。

 

よく寝る前にラブドールの通販サイトを巡回していたことを思い出す。アホみたいな量のブックマークをした。

 

大学生になっても実家住みだった私は就職を機に上京。一人暮らしの始まりである。

引っ越しというのは思っていたよりお金が掛かる。ラブドール資金にと貯めていたお金は引っ越し代として消えた。その点は良かったのかもしれない。もし私がラブドール資金を貯めていなかったら引っ越しは不可能だった。

 

慣れない仕事に追われつつ、頭の中はラブドールでいっぱいだった。家具の配置も迎え入れることを想定して計画した。

夏になり自己啓発支援金という名目で30万円の給与を頂いた。使用用途に関するレポートを提出しなければなのだがお構いなしだ。

案の定、後に呼び出しを食らったが気にしてなどいない。何故なら部屋にはラブドールがいるからだ。

購入したモデルは身重160cmの実寸大。購入以前に様々なブログで100cm程の小さなラブドール、いわゆるロリドールがオススメされていたが、私は洋服に発情する変態なのでカワイイお洋服を着させられるものが欲しかった。女児服よりも大人用の服の方が当然選択の幅が広い。

ロリドールがオススメされている理由は取り回しの容易さである。ラブドールというのは素材がシリコンや熱可塑性エラストマー(以下TPE)のため普通に重たい。私が購入したものも35kgある。力には自信があったのであまり気にせず購入したが、正直侮っていた。

ラブドールの35kgはヒトの35kgと勝手が違う。ヒトを持ち上げるとき、持ち上げられる人間は無意識にバランスを取るため、実際の重さよりも軽く感じられる。

初めてラブドールを持ち上げたとき、重たすぎて”フェンッ”と変な声が出た。ビクともしなかった。

35kgでこの重さである。180cm、70kgの人型の何かであったら間違いなく動かせないだろう。

重さが原因で着せ替えも難しく、当初予定していたようには行かなかった。結果、制服に落ち着き、半年ほど着用して頂いている。

買った当初はこれで風俗ともオサラバだと意気込んでいたが、布団への移動が億劫で5回しか使用していない。風俗にはお世話になりっぱなしだ。

性欲が高まっているとラブドールを移動することなど容易いのだが、達したあとは持ち上げられなくなる。事後に放置するのが嫌であまり抱かなくなった。

 

現在の用途は疲れたときに抱きしめたり観察することだ。女は髪が命なんて言葉があるが、なるほどなと思う。ラブドールに服を着せ、ウィッグをつけて抱きしめると確かにヒトを抱いている気分になる。

手や顔に当たる髪の毛が感覚を増長させる。よりリアルにしようと髪にフレグランスをかけると、TPEのゴム臭さがかき消され、それはそれは女になった。それも理想の。

そんなこんなで疲れたりするとラブドールにもたれ掛かったり、ぎゅーっと抱きしめたりする日々を過ごしていたのだが、表題の珍事が起こったのだ。

 

泊まり込みの仕事で二徹後の私は帰宅してすぐ、無意識にラブドールへと吸い込まれていった。そしておもむろに抱きつくと人肌に温かかったのだ。私は疲れすぎていたのか、そのことを当然と受け入れ、気がついたら朝だった。

翌朝、膝枕の体制で目を覚ました。ストッキングの感触がヒヤリと冷たい。

 

3日後くらいだろうか。突然違和感を感じ、あの日のことを思い返す。ラブドールは確かに温かかった。

その日から私は体温計でラブドールの体温を測り始めた。

3日で終わると思っていた。飽き性な自分は3日坊主なんて言葉があるように丁度3日で物事を辞めてしまう。しかし、ラブドールに体温計をかざし、表示されるLoの文字列を見て眠りに就くことは何故か5ヶ月も続いた。

 

2022年3月9日、この日私は検温を忘れて眠りに就いてしまった。するとパキッという嫌な音が響き、目を覚ました。音はラブドールの方から聞こえた。

灯りを付け、近寄ってみると右人差し指の爪が剥がれていた。

しかしその爪は何処にも見当たらない。執筆中の現在(2022年5月8日)においてもだ。少なくとも前日の夜まではあったはず。

音の大きさと事象が釣り合っていなかったのは些か不思議ではあるが、目を覚ましたおかげで検温をすることが出来た。

 

そしてラブドールが人肌になったことを観測したのだ。

あの日の出来事は夢ではなかった。それが知れて私は満足だ。

よかった、よかった。

 

 

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村