映画に逃げた

観た映画について書きますがホラー比重重め

就活脱線録 UFO>トンボ

 

就職活動が上手くいかず焦っていた。落ちた企業数は30を越え、ストレスで顔にニキビが増える。誰もニキビ面など採用したくはないだろう。ニキビで落ちる→ニキビが増える→落ちる→増えるの悪循環。実際は性格やら喋り方やらで落ちていたのだろうが、ニキビのせいにするのは一種の保身だった。

面接の練習だという大義名分を立て、ダメな友人らと日夜Zoomを開いては失敗談や企業の悪口を言い合いお互いを励ます。互いが互いを下に見て安心する、客観的に見て健全とは言い難い。ただその場に居ればこれほど楽しい物はない。日に日に心は荒んでいった。

就活に成功した人々とは次第に疎遠となり、残ったクズ共は固い絆で結ばれた。こうなってくると語り合う内容も次第に変化が訪れる。今までの関係性なら話さなかった様な恥ずかしい内容、例えば将来の夢や理想の生活、結婚観にまで話は及んだ。そして皆、内心せせら笑っていた。

こんな会を開いていると毎回出てくる話題はこのメンバーで起業しようという話だ。クズの思想は突飛で現実を見ない。

紆余曲折あり、ひとまずYouTubeをやってみようといったところで話は落ち着いた。YouTubeなら楽に稼げそうという、いかにもノータリンな発想。就活すらまともに出来ない自分らがYouTubeで成功なんてできるはずがない。全員わかってはいたが、誰も口には出さなかった。取りあえず何か、目に見える活動がしたかったに違いない。

ところが何本か投稿したところで皆のやる気が消え失せた。それはそうだ、クズは頑張れないし、協調性を持ち合わせていない。だからこうして売れ残り、くだを巻いているのだ。

結局そのチャンネルは無かった事となった。だが私は奴らに内緒でYouTubeを続けようと思った。奴らに問題があり、自分は悪くないと証明したかったからだ(後日判明した事だが、他の奴らも同じ考えのもと内緒で動画投稿を続けていた。クズの考えは似通う。最悪)。

動画を撮るにしても1人ではやれることに限りがある。取りあえず協力者を探すことにした。クズ共と接点が無く、動画のネタになってくれるような人間。

ある男が候補に挙がり、早速コンタクトを試みた。彼の名称をここでは仮に”ガリ”とする。文字通り病的に痩せているからだ。彼は学科一の変人で、趣味はカメラ。被写体は主にトンボと鉄道である。私は日頃の報道から撮り鉄に対し、ヒドい偏見を持っていたのだが彼はその通りの人間だった。性格に難がある。就活に失敗していると風の噂で聞き、説得しやすいだろうと声を掛けた。

ガリはコチラを疑ってかかった。私が本気で取り組むとは思えなかったらしい。もちろんクズ共と動画投稿していた事は話していない。ガリの鋭い洞察力に驚く。

その日の話し合いで私の出した企画案はことごとく却下された。後半は半ば言い争いとなり、互いの言葉を遮り合う大舌戦だった。これはダメだなと悟ったが、後日ガリから一方的に時間と場所を指定するメッセージが送られてきた。トンボ撮影の下見に行くとのことだった。

 

当日、始発電車に揺られて目的地を目指す。ところが人身事故が発生し、到着が遅れる事が確定した。私はその旨を恐る恐る伝える。罵られるのではと思ったからだ。ところがガリの対応は優しかった。どうやら彼は私が本当に来るとは思っていなかったようで、来ただけでも感心しているようだった。私は約束を破るような人間だと思われていたことに腹を立てた。

最寄り駅に着き、ガリと連絡を取る。彼は先に目的地へと出ており、地図のスクショを送ってきた。目的地は大きな公園で、駅から7kmの距離がある。事前連絡も無く7km歩かせるとか正気か??そういうところやぞ。

公園に着いてから合流するまでも長かった。ガリは下見に夢中だったので連絡が付かず、私は自力でトンボの居そうな場所を見つけては彼を探す。30分ほどそうしているとようやく電話がかかってきた。

合流してガリの服装に驚いた。ウェーダーを着込んでいる。池の水を抜くときに田村淳が着ているあれだ。服装について何も聞かされていなかった私は、小川にでも入るのだろうと思い、動きやすい格好にマリンシューズを履いていた。そんな私を彼が笑う。ムカついた。

そしてガリはそこで待っててと言い残し、常識的に考えて立ち入り禁止であろう沼へと臆さず進んでいった。帰ってきた彼がここじゃ無かったかと独り言を零す。

スポットとスポットの移動の最中、私はガリにひたすら質問を投げかけた。コミュ症の私は質問という形でしか関係の浅い人と円滑な会話が出来ない。

私:これは何をしているの?

ガ: ○○○トンボの羽化場を探してる。成虫が飛んでるからここら辺だと思うんだけど...。情報がこの公園にいるって事だけだからしらみ潰しに探すしかない。

私:情報ってどこから仕入れてるの?

ガ:Twitterとかで他のトンボ屋と情報共有してる。けどみんな曖昧な場所しか教えないから結局自分で行ってみるしかない。

私:トンボ屋?なんで具体的な場所を教えてくれないの??

ガ:トンボ屋っていうのは撮り鉄みたいな名称で、トンボ好きのこと。場所を教えないのは生息場所を荒らされないためと自己満足。

私:なるほど。因みに今回の場所を知ったのはどういう経緯で?

ガ:Twitterの画像とツイートの内容で大まかな見当を付けた。昔の地図を見て水場を探したりしてこの公園かなと...。

私:えっ?じゃあいる確証無く今日来たってこと?

ガ:だから下見って言ったじゃん。成虫がいたから、今日はそれが分っただけで十分。

私:......。

ガ:あっ!あそこの草むら人の歩いた跡があるなぁ。

ガリは人の通った痕跡のある草むらをかき分け、池へと消えていった。情報共有とは??と不思議に思ったが機嫌を損ねそうだったので深く聞くのはよしておいた。私はラインの分る人間だ。

因みにここまで取れ高は一切無い。質問を繰り返しながら舗装された道を歩き、水場を見つけてはガリが羽化場かを確認する。そして私が「ヤゴいた~~?」と問いかけ、ガリが「いない~~」と返す画が延々と続く。

さすがにこのままではヤバいと思い、私もカメラを構え水場に入った。彼が前を歩き先導してくれたのだが、体重差がありすぎて当てにならない。ガリがすいすいと進んだ道で、私は膝まで泥に浸かり身動きがとれなくなってしまった。痩せろデブ。

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結局この日、羽化場を見つけることは出来なかった。私には明かな徒労に思えたが、ガリはあっけらかんとしている。こんなことは日常茶飯事らしい。

私には何故こんなにもトンボに対し情熱を持てるのかが分らなかったので、帰り道そのことを尋ねた。トンボが好きな理由は昆虫で一番速く飛ぶからだそうだ。次点で被写体として魅力があること。トンボの目は綺麗な色をしているが、標本にすると輝きが失われてしまうのだとか。楽しそうに語るガリの様子を見てとても羨ましく思った。私には情熱を持って語れる物など何もない。

私たちの共通項はけものフレンズしかかなかったため、道の途中からはずっとけものフレンズのことを話して歩いた。

駅に着くと、ガリからもう1箇所行く余裕はあるかと尋ねられた。これでは動画にならないので、もちろん同行させてもらう。目的地を聞くと○○○川の河川敷と言われた。地理に疎い私はよく分らず適当に返事をした。そして促されるまま電車に乗ったのだが、まさかの3県を跨いだ移動。旅行の距離だ。ガリの非常識さを舐めていた。

最寄り駅から再度徒歩、距離は5kmほど。どうやらガリは性格が悪いわけではなく、極端に視野が狭いだけだと分った。彼の目にはお目当ての物しか映っておらず、その他のことはまるで気にしない。こういった人間が学者に向いているのだろう(何故か院に進まず就職活動を行っているが)。

案内された河川敷は背丈より高い草が生い茂っていた。ガリは見失わないように付いてきてと言い、草むらへと入っていった。私は急いで後を追う。

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なんか既視感のある草むら。そうだ、全裸同好会だ。河川敷がゲイの発展場になっているとのネットニュースを思い出した。冗談半分でガリにそのことを告げると「そういえば前来たときにパンイチのおっさんが鎌を持って出てきた」などと言い出した。この野郎、なんて場所に連れてくるんだ。

草と格闘し、ようやく川に出た。この一角だけ妙に開けており、ガリは”拠点2”と呼んでいる。さも普通に造語を使う彼に対し、私は内心引いていたが顔には出さない。度重なる面接により、こういった事態に対する対処が上手くなった様に思える。

”拠点2”に荷物を置き、いよいよトンボ探しが始まった。ここには激レアなイトトンボが生息するとのこと。ガリの知人である他のトンボ屋が整地を行った様で、明らかに草が生えてない道が出来ていた(合法か?)。その道は約50mで、間にトンボの水場が3つ程ある。手分けしてトンボの捜索を行った。中腰になり、足音を殺してゆっくりと行き来する。

始まってすぐにガリの呼ぶ声がした。彼の指さす方を見ても何もいない。よ~く注視するとほっそい線のようなものが浮かんできた。思ったよりも断然小さく、デタラメに速く動いている。こんなの自分に見つけられるはずがない。持っていたカメラで撮影を試みるも小さすぎ&速すぎでまるで写らない。

私は内心帰りたいと思ったが、ガリがあまりにも楽しそうにしていたので表に出さないよう努めた。

半ばルーチンのように道を歩いていたが、あるとき違和感に気付き顔を上げる。すると上空に赤褐色で楕円形の飛行物体が浮かんでいるのを見た。UFOに違いない!私はガリを呼んで空を指さす。UFOは速いとも遅いとも言えない絶妙な速度で視界の左端から右端へと滑るように進んでいった。

ガリも途中から目撃したはずだ。ところが彼は、何だトンボじゃ無いのかと毒づいた。私はこの瞬間、彼とは親しくなれないなと改めて思った。私にとってUFOへの関心>>>トンボへの関心なのだ。多少築かれつつあった信頼関係がガラガラと音を立て崩れ落ちていく。

撮影を終えた帰り道、何を話したかは覚えていない。ガリにとってトンボ>>>UFOであったのが頭から離れず、何も入ってこない。些細なことかも知れないがトンボ>>>UFOであるだけで私は彼を嫌いになった。

 

結局動画は使い物にならず、YouTuberとして生きる道は潰えた。

今日も私はクズ共とZoomで愚痴を零している。

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